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名古屋高等裁判所 昭和32年(ネ)395号 判決 1957年12月14日

控訴人 被告 吉田外行

訴訟代理人 塩田親雄

被控訴人 原告 株式会社松岡商店

訴訟代理人 鳥巣新一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠として被控訴代理人は甲第一ないし第六号証を提出し、原審証人金山信明の証言を援用し、乙号各証の成立を認め、控訴人は乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四、五号証を提出し、原審証人吉田聖恚の証言、原審における控訴本人尋問の結果を援用し、甲第一ないし第三号証の符箋の部分の成立を不知と述べ、その余の部分及び甲第四ないし第六号証の成立を否認した。

理由

原審証人金山信明、同吉田聖恚の各証言によれば、本件約束手形三通(甲第一ないし第三号証)は被控訴人と訴外吉田兄弟株式会社名古屋営業所との間の取引に関し、右訴外会社名古屋営業所長であつた訴外吉田聖恚において買掛金決済のため控訴人名義で被控訴人に対し振出し交付したものなることが認められる。

そして吉田証人の原審における証言によれば、訴外吉田聖恚は訴外会社の名古屋営業所における営業に関し一切を一任されていたところ、昭和二十四、五年頃手形の不渡を出したため取引銀行より取引停止をうけ訴外会社名義で取引ができなくなつたので、協和銀行中村支店に訴外会社の取締役である控訴人名義の口座を設けて銀行取引をなし、従つて営業に関する手形及び小切手の振出にも控訴人名義を使用していたことを認めることができ、控訴人が昭和二十八年四月頃訴外会社名古屋営業所において控訴人名義の小切手が振出されているのをみて、右吉田聖恚が取引乃至支払手段に控訴人名義を使用していることを知つたのであるが、右吉田から貴方に迷惑をかけないといわれたのでそのままとしてなんら差止める措置を講じなかつたことは控訴本人の原審における供述によつて明らかであるから、右以後の振出にかかる本件約束手形三通についても控訴人において訴外吉田聖恚が控訴人名義を使用することを暗黙のうちに許諾していたものといわざるを得ず、前記金山証人の証言によれば被控訴人は右手形の振出人は控訴人であると誤信していたことを認めることができる。右認定に反する控訴本人の原審における供述はたやすく措信しがたく、乙号各証によるも右認定を左右しがたい。

従つていやしくも他人に対し自己名義の使用を許したものは善意の第三者に対しその結果の責任を負うべきこともちろんであるから、控訴人において本件手形三通の振出名義を許容している以上その振出人としての責任を負うべきこと明らかである。

よつて被控訴人が控訴人に対し本件約束手形金合計十九萬四千九百三十五円及びこれに対する本訴状送達の翌日なること記録上明らかな昭和三十一年十二月一月以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める本訴請求は正当で、これを認容した原判決は結局正当であるから、本件控訴を棄却すべく、民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に従い、主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 山口正夫 裁判官 黒木美朝)

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